【2021/3/13(土)~3/19(金)】『アタラント号』『新学期 操行ゼロ』『競泳選手ジャン・タリス』+『ニースについて』『カメラを持った男』

すみちゃん

29歳と若くして亡くなったジャン・ヴィゴは、閉じられた世界からの憧れや解放を、ウィットに富んだ視点で見つめている。『新学期 操行ゼロ』で描かれるのは、寄宿学校での窮屈な日々から反逆を起こそうとする子供たちの姿。仕切りもなくただベッドが並ぶ生徒たちの部屋では、なぜか先生も一緒に寝ている。お年頃なのに、プライバシーもあったもんじゃない! ご飯の時間も寝る時間も、自由に生きるんだ! と言わんばかりに散らかしまくる子供たちの激しさは、むしろ子供のあるべき姿なのかもしれない。

初の長編作品で惜しくも遺作となった『アタラント号』は、船の中で暮らし始める新婚夫婦のお話。幸せいっぱいの新婚生活かと思いきや、妻のジュリエットはパリの街にあこがれて出かけて行ってしまう。船というと、広い海に浮かび自由なイメージがあるものの、意外とすぐには外に出られない不自由さがある。ジュリエットは、少し窮屈に感じたのだろう。

ヴィゴ自身、父親がアナーキストだったため、身を隠しながら暮らす生活をしていたようだ。そして病気を患っていた若きヴィゴの瞳に映る世界は、どこか閉塞感のある世界であっただろうと想像する。映画の中の子供や妻に、その窮屈さから抜け出したいという気持ちを反映させているようだ。

ドキュメンタリー作品では、よりヴィゴのまなざしが感じられる。『競泳選手ジャン・タリス』では、スポーツ選手の泳ぐ姿を記録するというよりは、水と身体の戯れが楽しく切り取られ、当時の水着が薄手の生地でハラハラするのも見どころ! 『ニースについて』ではヨーロッパの三大カーニバルのうちの一つである、ニースのカーニバルの準備から終わりまでを、そこに住む人々の日常や風景を織り交ぜて構成している。富裕層がのんびりとしている中で、庶民は洗濯や靴磨きをする姿を、同じように並べていく皮肉めいた目線が面白い。撮影はボリス・カウフマン。カウフマンというと、異母兄であるジガ・ヴェルトフと共に『カメラを持った男』を前年に製作しており、ヴィゴはその影響を受けている。今回のBプログラムでは、『カメラを持った男』を併映で観られるので、是非その関連性も楽しんでもらいたい! こちらも当時のソ連時代の生活する人々が映し出されるが、合間に必ずファインダー越しの目のカットが挿入され、“まなざしのまなざし”というべきショットが随所に登場する。

キャメラを人間の視覚を拡張し、新しい認識をもたらす道具として活用する〈映画眼〉をジガ・ヴェルトフは唱えていたが、一体どんなものなのか? 常に映像には撮影する側と映される側が存在する中で、私たちがスマホで撮影するなどして切り取る日常とはどんな視点なのだろうか? カメラを通して世界を見つめるということは何なのかを問われる特集となるでしょう!

アタラント号 4Kレストア版
L'Atalante

ジャン・ヴィゴ監督作品/1934年/フランス/88分/DCP/スタンダード

■監督 ジャン・ヴィゴ
■製作 ジャック・ルイ=ヌネーズ
■脚本 ジャン・ギネ
■脚色 アルベール・リエラ/ ジャン・ヴィゴ
■撮影 ボリス・カウフマン
■編集 ルイ・シャヴァンス
■美術 フランシス・ジュールダン
■音楽 モーリス・ジョベール

■出演:ジャン・ダステ/ディタ・パルロ/ミシェル・シモン/ルイ・ルフェーヴル/ジル・マルガリティス

©1934 Gaumont

【2021年3月13日から3月19日まで上映】

これからずっと船の上。

田舎町とル・アーヴル間を運行する艀船アタラント号。乗組員は船長のジャンとジュリエットの新婚カップル、変わり者の老水夫ジュールおやじと少年水夫、そしてかわいい猫たち。はじめは新婚生活にときめいていたジュリエットだったが、狭い船内の単調な生活に息が詰まってくる。アタラント号がパリへ到着するとジャンとジュリエットはダンスホールへ。そこへ行商人がやって来てジュリエットを口説き始める。田舎娘のジュリエットは大都会パリへの憧れを抑えきれず、夜にこっそりと船を降りてしまう。怒り心頭のジャンは彼女を置き去りにして出航してしまうが…。

「私が世界の映画のベストテンをもし選ぶなら、『アタラント号』を忘れることは、絶対にないだろう」――フランソワ・トリュフォー

くめどもつきせぬロマンティシズム、澄みきった情緒。世界映画史に名を刻んだ夭折の天才、ジャン・ヴィゴ。わずか29歳でこの世を去った彼の唯一の長編作にして遺作である『アタラント号』。ジャン・ヴィゴの娘ルース・ヴィゴと映画史研究家ベルナール・エイゼンシッツ監修のもと、ゴーモン社、シネマテーク・フランセーズ、フィルム・ファウンデーション共同でリマスターをした世界初の4Kレストア版がついに完成した。

全編に溢れるユーモアさと自由さ、そして官能的な映像表現の極致。水のなかに、愛が見える。

新学期 操行ゼロ 4Kレストア版
Zero de Conduite

ジャン・ヴィゴ監督作品/1933年/フランス/49分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・編集 ジャン・ヴィゴ
■製作 ジャック・ルイ=ヌネーズ
■撮影 ボリス・カウフマン
■美術 アンリ・シュトルク
■音楽 モーリス・ジョベール

■出演:ジャン・ダステ/ルイ・ルフェーヴル/ジルベール・プリュション/ジェラール・ド・ベダリュー

©1934 Gaumont

【2021年3月13日から3月19日まで上映】

無邪気なアナーキズムが生んだ小さな革命のメロディー

フランスの全寮制中学。校長や教師たちは規則で生徒たちを抑えつけ管理しようとする。規則違反の最も重たい罰は「操行ゼロ」、日曜日の外出禁止だ。生徒を理解してくれるのは新任の若い先生だけ。自由を奪われ我慢の限界に達した生徒たちは、革命と称し、学園祭を大混乱に陥れるのだった。

天才ジャン・ヴィゴが、鋭い批判の矢を放つ永遠の自由への讃歌

監督第3作。28歳のヴィゴが描く小さな革命。競走馬の馬主ジャック・ルイ=ヌネーズが出資、製作。猛烈なアナーキズムと自由で詩情に満ちた映像表現。そのスキャンダラスな内容から「無政府主義的な反抗心を助長する、知事など公共の権威者および牧師など聖職者に対する攻撃」との理由で12年近く上映禁止になった。

競泳選手ジャン・タリス 4Kレストア版
Taris, Roi de L’eau

ジャン・ヴィゴ監督作品/1931年/フランス/10分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・編集 ジャン・ヴィゴ
■撮影 ボリス・カウフマン
■出演 ジャン・タリス(本人)

©1934 Gaumont

【2021年3月13日から3月19日まで上映】

愛用のカメラをガラス箱に入れて水中撮影に成功した監督第2作。

監督第2作、26歳。1931年に400メートル自由形で4分17秒の世界新記録を樹立した水泳チャンピオン、ジャン・タリスの強さの秘訣を分析するスポーツ・ドキュメンタリー。この当時は画期的であった水中撮影のほか、スローモーション、リバースなどの映像技巧を駆使。これらの映像技法は後の『アタラント号』『新学期 操行ゼロ』の原点とも言える。

ニースについて 4Kレストア版
À Propos de Nice

ジャン・ヴィゴ監督作品/1930年/フランス/23分/DCP/スタンダード

■監督 ジャン・ヴィゴ/ボリス・カウフマン
■脚本 ジャン・ヴィゴ
■撮影 ボリス・カウフマン
■音楽 マルク・ぺロンヌ
■作曲と演奏 ステファン・ホーン/フランク・バッキアス

©1934 Gaumont

【2021年3月13日から3月19日まで上映】

ジャン・ヴィゴ監督第1作、25歳の時の短編作品。

ヴィゴの監督第1作となる短編作品。意気投合した撮影監督ボリス・カウフマンと一緒に制作。カウフマンが前年に異母兄ジガ・ヴェルトフと作った『カメラを持った男』の強い影響を受けている。南仏ニースの街並み、バカンスに興じる富裕層の生態と庶民とを交差させ、エネルギッシュに活写する映像スケッチ。富裕層と庶民を対比させる構成は、鋭い観察眼による痛烈な皮肉と批判に満ちている。

カメラを持った男
Man with a Movie Camera

ジガ・ヴェルトフ監督作品/1929年/ソ連/68分/35mm/スタンダード/サイレント

■監督・脚本 ジガ・ヴェルトフ
■撮影 ミカイル・カウフマン
■編集 エルザヴェータ・スヴィロヴァ


★サイレント・音楽なしの上映となります

【2021年3月13日から3月19日まで上映】

ソヴィエト記録主義映画のパイオニア、ジガ・ヴェルトフによる実験的ドキュメンタリーの金字塔。

ゴダールらのシネマ・ヴェリテにも影響を与えた、ソヴィエト記録主義映画のパイオニア、ジガ・ヴェルトフ。都市と都市生活者の一日を、鮮烈な映像美と超絶的なモンタージュ技巧を駆使して綴るドキュメンタリー。プロパガンダの枠を超えて、映画言語のひとつの究極を示したことで知られる。観客にキャメラの存在を察知させない劇映画を批判してきたヴェルトフ=<映画眼>の集大成であり、監督の名を世界に知らしめた傑作。

日本では1932年に『これがロシヤだ』という邦題で公開された。現在では原題の直訳である『カメラを持った男』というタイトルで表記されている。

ジガ・ヴェルトフ(1896.1.2~1954.2.12)

ソビエト連邦でドキュメンタリー映画に先駆的に取り組んだ映画作家。ジガ・ヴェルトフは「回るコマ」というほどの意味で、本名はダヴィド・アーベレヴィチ・カウフマン。1917年のロシア革命で、両親と末弟のボリス〈『アタラント号』(1934)などのキャメラマン〉は西側へ亡命したが、ヴェルトフはモスクワでソ連初のニュース映画を手がけ、煽動列車にも参加。人間の視覚を拡張する〈映画眼(キノキ)〉の重要性を提唱したが、『キノプラウダ』シリーズでは実験の行き過ぎに批判も受けた。『カメラを持った男』(1929)で世界的名声を得る。スターリン時代には自由な作品づくりができなくなり、失意のうちにがんで亡くなった。ゴダールらが1970年前後の政治の季節に「ジガ・ヴェルトフ集団」を名乗ったように、映画史を通じて重要な霊感源であり続けている。

(アテネ・フランセ文化センター オフィシャルサイトより抜粋)